川原「宮代! 宮代はいるか!」
伊藤「うおっ、びっくりした! なんだ、また副会長か」
川原「……宮代はどこだ?」
伊藤「今日は帰ったけど。新聞部になにか用?」
川原「新聞部には忠告したはずだ。お前らがなにをしようと構わないが、来栖にだけは迷惑をかけるなって。それなのにまた余計なことをしてくれたな。いいか、生徒会と来栖を巻き込むなと、宮代にも伝えておけ」
伊藤「余計なことってなんだよ~。新聞部だって、副部長(来栖)の指示で文化祭の仕事はしてるぜ?」
川原「渡部とかいうマスコミ関係者とトラブルになってるらしいじゃないか」
伊藤「ああ、あのことか……。あれは向こうがこっちのネタをパクったんだよ。文句言われる筋合いはないって」
川原「向こうがパクっただって? 新聞部は、ずいぶんと自分たちを過大評価してるんだな」
伊藤「今回に関しては、ガチだ。俺たちの方が先なんだ」
川原「先か後かはどうでもいい。トラブルを起こすなって言ってるんだ」
伊藤「碧朋学園生徒会なら、学園の生徒の味方になってくれよ」
川原「新聞部だけに関わっているほど、今の生徒会は暇じゃない。文化祭の準備で忙しいって言ってるだろう」
伊藤「そりゃ分かってるけど、だからって一方的に新聞部を悪者にするなよな」
川原「悪者にしたくもなるさ。新聞部のせいで普段、来栖がどれだけ神経をすり減らしていると思っているんだ。なのにあいつは、俺の前では決して弱音を吐こうとしない。毅然として仕事をこなしている。そういう健気な姿を見ていたら、俺は……涙が出そうになる」
伊藤「お、おう……。なんか、心酔してるって感じだな。まあ、俺も、副部長はすごいヤツだと思ってるけど」
川原「だろう!? そう思うだろう!? 来栖は小学校の頃から、みんなのリーダーみたいなものだったんだ。いつだって輪の中心にいた。人気者で、誰に対しても分け隔てなく笑顔で接してくれた。まさに生徒会長になるべくして生まれてきたと言ってもいい」
伊藤「ナ、ナチュラルボーン生徒会長か。もうちょっと、スケール大きくしてやってもいいと思うぜ……」
川原「来栖には人の上に立つオーラがある。碧朋学園初代生徒会長になったのは、当たり前の結果だ。そんな来栖を支える立場にいられて、俺は自分を誇りに思う」
伊藤「それ、本人に伝えたらどうだ?」
川原「本人に? ……伝えたら、どういう反応をすると思う?」
伊藤「んー、そうだな。喜ぶか、ドン引きされるか、フィフティフィフティぐらいだな。ははは」
川原「…………」
伊藤「に、にらむなよ……」
川原「とにかく来栖は今、忙しいんだ。生徒会長としての仕事に集中させてやれ。できることなら、来栖には今すぐ新聞部と縁を切ってもらいたいぐらいだ。生徒会長と新聞部副部長の兼任なんて、負担が大きすぎる」
伊藤「いやあ、縁を切るのは無理だろ。副部長のブラコンっぷりを考えるとな」
川原「来栖のことをブラコンなどと決めつけるな!」
伊藤「うおっ、キ、キレるなって!」
川原「来栖は、ブラコンじゃない。出来の悪い弟に振り回されてるだけだ。宮代がもっとしっかりしていれば、来栖はあんな苦労をせずに済むんだっ」
伊藤「落ち着けって。なあ、俺だって、お前の言うこと、分からないわけじゃないんだぜ?」
川原「なんだと?」
伊藤「宮代には言ってないけど、俺も副部長については思うところがあるんだ。確かに新聞部員で収まる器じゃない。生徒会長としての人望は厚いし、そっちにもっと力を注ぐべきだ。それにさ、正直なこと言うと……ちょっと、怖いんだよな」
川原「怖い……?」
伊藤「だって、俺や宮代のやろうとすることにすぐ文句言って、ブレーキかけようとするからさ。女帝と呼ばれるだけあって、怒ったときの迫力がハンパないんだよ。そりゃ、俺や宮代も好き勝手やりすぎてることは自覚してるし、副部長がいるおかげで新聞部がこれまでお咎めなしで済んでるのは確かなんだけどさ、やっぱ譲れない男のロマンみたいなものがあるだろ? そういう意味じゃ副部長の目が届かない方が、俺も宮代もやりやすいっていうか」
川原「ふざけるな!」
伊藤「へ!?」
川原「お前、それでも新聞部員か! 新聞部のためにあれだけ気を揉んでいる来栖のことを、よりにもよって、“いない方がやりやすい”だと!?」
伊藤「ええー!? なんでお前がそこにキレてるんだよ!?」
川原「来栖が、新聞部にどれだけ思い入れを持っているか、お前は知っているのか!」
伊藤「いや、知ってるって。それに邪魔者扱いしてるわけじゃねえし! そもそも副部長に新聞部と縁を切ってほしいって言ったのはお前の方だろ!?」
川原「それは俺の願望であって、来栖の意志は尊重すべきだろう!」
伊藤「おいおい……。結局、お前は副部長に新聞部をやめてほしいのか? ほしくないのか? どっちなんだよ?」
川原「やめてほしいさ! だが、新聞部の助けなど借りない。俺だけでなんとしても説得してみせる。邪魔したな!」
伊藤「あ、おい……! 行っちゃったよ。結局、なんの話だったんだ? 意味分かんねえ……」